行ったはずのないサーカスの
喝采のざわめきの波に
私は一人取り残されて立ち竦んでいる自分を
現実に渇いていく身体のように
身近な実感として感じ始めていた
カクテルゼリーがばら撒かれたような
玩具のようなフィルムが
私の脳裏にぶつかって転んでいく
また寂しそうなピエロ
あなたは夜明けじゃなかったの?
そう思って私は初めて気がついた
話す相手がいないのだ彼は
だから
耳も聞こえていないのだと
譜奏229
行ったはずのないサーカスの
喝采のざわめきの波に
私は一人取り残されて立ち竦んでいる自分を
現実に渇いていく身体のように
身近な実感として感じ始めていた
カクテルゼリーがばら撒かれたような
玩具のようなフィルムが
私の脳裏にぶつかって転んでいく
また寂しそうなピエロ
あなたは夜明けじゃなかったの?
そう思って私は初めて気がついた
話す相手がいないのだ彼は
だから
耳も聞こえていないのだと
譜奏229
星を見ても何も感じない夜
私を複雑な無色に見せている迷彩は
私自身が眠りの中で描いていた濃淡なのだと
深い眠りの底の住人が教えてくれた
あなたは毎夜訪ねてきますよ
裸足でね
哀れだと思っていましたけどね
瞼を開けたことがないから
そう言っていた気がした
しかし私の目に見えていたのは
ペンローズの面のように広がる区切りのない道だった
この人は少なくとも1度は私に嘘をついていると思った
だってメビウスの輪は少女のようにみつめなければ
呪いのようには終わらなかったのだから
譜奏228
短い春の日
傷つけたいほど大事にしていたペンダントを失くした
いつか誰かの写真を入れる欲望が取り残された
それから私は首飾りをしない
大人になって思慮の果てに
欲望をみつめることを覚えたけれど
その時間から得られたものは何もなかった
人はおそらく
正しいと誤り以外の力で縛られている
人間の執着は壊れていくものなのか
それとも死んでいくものなのだろうか
人は深く愛されれば輝くけれど
強く愛されたら媚びを分泌する
そして卑しい驕りの姿になっていく
譜奏227
肩に薄い青の布を下げて北側に向いて歩いた時
あぁ私はもう二度と
この色を首に巻くことはないと思っていた
私には結局
偏角にしか意識が向かなかった実感があり
いつの時も
磁北にしか位置していない私自身への苛立ちがあった
私は鈍感な日時計のようだった
その下で紫菊の花が咲いていた
きっとその朝には寂しさに凍えていた
私が体温を守ってあげたら
そしてあなたの体液に均質してあげたら
私は偏角を忘れることができるのだろうかと思った
私の運命はまたお腹を空かしているようだ
譜奏226