2018年6月6日

行ったはずのないサーカスの

喝采のざわめきの波に

私は一人取り残されて立ち竦んでいる自分を

現実に渇いていく身体のように

身近な実感として感じ始めていた

カクテルゼリーがばら撒かれたような

玩具のようなフィルムが

私の脳裏にぶつかって転んでいく

また寂しそうなピエロ

あなたは夜明けじゃなかったの?

そう思って私は初めて気がついた

話す相手がいないのだ彼は

だから

耳も聞こえていないのだと

 

譜奏229

2018年6月4日

星を見ても何も感じない夜

私を複雑な無色に見せている迷彩は

私自身が眠りの中で描いていた濃淡なのだと

深い眠りの底の住人が教えてくれた

あなたは毎夜訪ねてきますよ

裸足でね

哀れだと思っていましたけどね

瞼を開けたことがないから

そう言っていた気がした

しかし私の目に見えていたのは

ペンローズの面のように広がる区切りのない道だった

この人は少なくとも1度は私に嘘をついていると思った

だってメビウスの輪は少女のようにみつめなければ

呪いのようには終わらなかったのだから

 

譜奏228

2018年6月1日

短い春の日

傷つけたいほど大事にしていたペンダントを失くした

いつか誰かの写真を入れる欲望が取り残された

それから私は首飾りをしない

大人になって思慮の果てに

欲望をみつめることを覚えたけれど

その時間から得られたものは何もなかった

人はおそらく

正しいと誤り以外の力で縛られている

人間の執着は壊れていくものなのか

それとも死んでいくものなのだろうか

人は深く愛されれば輝くけれど

強く愛されたら媚びを分泌する

そして卑しい驕りの姿になっていく

 

譜奏227

2018年5月30日

肩に薄い青の布を下げて北側に向いて歩いた時

あぁ私はもう二度と

この色を首に巻くことはないと思っていた

私には結局

偏角にしか意識が向かなかった実感があり

いつの時も

磁北にしか位置していない私自身への苛立ちがあった

私は鈍感な日時計のようだった

その下で紫菊の花が咲いていた

きっとその朝には寂しさに凍えていた

私が体温を守ってあげたら

そしてあなたの体液に均質してあげたら

私は偏角を忘れることができるのだろうかと思った

私の運命はまたお腹を空かしているようだ

 

譜奏226