2019年10月11日

どんな時でも丁寧な言葉遣いで母のような

子供思いの先生のような柔らかい笑みをいつも投げかけて

お出かけですか?

夏が終わったばかりなのに少し寒くなってきましたね

などと話しかけてくれる銀髪の婦人は

雨降り以外の日はだいたい池の周りにあるベンチに座っていた

駅までの通り道なので私はいつも立ち止まって会釈を返す

そして、いってらっしゃいという声を背中で聞いて

私は少し早足になって歩いていくのだ

今日は編み物をしていて私に気づかなかったので

私がこんにちはと声をかけたら手招きをされて近づいたら

頂き物ですが、とオシャレなチョコを2つ私の手に握らせてくれた

間近で見る婦人はさらにやさしさに溢れていたけれどじっと見ていると

何故かちょっとイヤな顔だと思った自分に私は驚いていた

 

譜奏440

2019年10月9日

森の中の白霧を彷徨うように生きてきたわたしに

40代に見えると言ったあの男の言葉が生きる道になった

萎んでいくように張りを失くした肌がひどく気になって

男の誘惑から逃げ離れた夜

わたしは夜明けまで泣き明かすしかなかったの

悔しいというよりただ自分を憎んでいたから

アンチエイジングのメニューをマネキン人形のようにこなして

次の秋の夜

わたしはマネキンのままのメイクでシルクのブラウスに胸を包み

あの男と会ったバーラウンジの同じ止まり木にすわっていた

何かが起こるはずはないと知りながら辺りを見回して

そして惜しむような立ち去りたいような霧の中で想った

すべてのことはどうでもいいの

わたしは川のようにオンナを流れていたいだけなのと

 

譜奏439

2019年10月7日

恋という言葉には甘美な香りが漂うけれど

終わり方は平凡

愛という言葉には崇高な趣きが感じられるけれど

明らかな始まり方はない

だから恋愛という言葉は実に不適切な造語でしかなくて

追及のしにくい居心地の良い人気によって

人生のゲストとして歓迎されてきたのだろうと思う

人が好むという理由だけで嗜好設計されて

綺麗な色に色にと改良されてきた花たちの運命に相似している

女の価値は沈黙の扱い方で大きく変動するといずれは判るのだから

なされるがままの運命に微笑んでみせて

女は最初にはっきりと自分の胸にこう呟けばいいのだ

もし私の恋の都合で私の好む愛の形があなたで造られない時は

あなたの人生をボロボロにしてあげるからねと

 

譜奏438

2019年10月4日

左利きだと分かった時

両親が何故か右利きに矯正しようと考えて

練習させられているうちに左右どちらも同じように使えるようになって

わたしも面白くなっていろんな筆跡で書いて遊んでいたら

両手で10種類くらいの違う文字が書けるようになって

さらに面白くなってしまってエスカレートしてしまって

多分専門家でも判別出来ないくらいの完成度にまでなっていて

だったらそれぞれの違った人格を持って書かなきゃいけないと思って

文字と合いそうな人格を一生懸命思い浮かべて書くようになって

それがまた面白くてやめることが出来なくなってしまって

イイ大人になったのに仕事にも恋にもオシャレにも興味が湧かないの

だって忙しいんだから本当に

もっともっと増やさなきゃいけないんだからね本当に

でないと叱られちゃうでしょ大好きなお父さんお母さんにサ

 

譜奏437