2019年9月11日

感染して捕らわれて心を塞ぎ

弱さを隠すために気がつかないフリを上達させる女たち

高価なものを性を誇張するように身に付けて

ゆっくりと萎んで知るか知らずか自分をダメにしていく女たち

安心な日常と安全だと思える危険をオモチャにして

透明だった欲望に悪い熱をこもらせていくように

似非仕様の心の内部に留保していく女たち

そして

比べることでしか自分の女としての価値を測れなくなる女たち

きっとそんな女たちには身を囲う場所なんてない

何故このような機能菌が作られているのだろうと思う

しかし何より一番に深刻に思えるのは

自分が何に捕らわれているのかが分かっていないこと

だったりするのではないか

 

譜奏427

2019年9月9日

悲しい絵本を読んだら

涙でいっぱいになって

不思議な絵本を見ていたら

口がとんがらがって

隠れた月が怒ったように

黒い雲を連れ出してきたら

雨が地上にリズムを振り落として

私の傘が

その音と遊ぶようにくるクルくるクル

空に向かって回りだす

誰も知らなかったダンスのように

何も知らない瞳のようにまた

クルくるっと笑って回ってる

回ってるの

 

譜奏426

2019年9月6日

天使と悪魔の間に果物が置かれていたら

その誘惑に手を伸ばすのは当然のことのように思えるのにと

私はそこまで立ち入ってきた寓話の性悪さを嫌っていた

偏った示唆は何かしらの私欲の意図が産んだものだ

ただ人びとへの扇情に長けていたに過ぎない

月よ星よ宙よと私は声にする

あなたもその片棒を担いでいる手先なのかと思ったら

やはり切なさだけが私の胸に一色になって広がっていった

対面に罪だけが配置されていることを空しく思いながら

祈りの形を忘れた手を見ているうちに

私はいつしか眠ってしまったのだろう

夢の中を無数の文字のように見える雪が

始まったばかりのように永遠に終わらないように

戯けながら私をみつめ返して嗤っているように見えていた

 

譜奏425

2019年9月4日

雨の夜にだけ思い出す人がいる

涙が忘れてくれないの

ひどい恋だったのに

悲しみだけが

心を満たしてくれるなんて

そんな歌だった

多分私の母くらいの年齢だろう

銀飾りのドレスが痩せたジャズシンガーの身体を包んでいた

私はその歌声に不意をつかれていた

この歌はこの人のことに違いないとしか思えなかったのだ

私がこの人をこの歌を抱きしめられる日がくるのだろうか

こぼれそうな涙を拒んでうつむいていた目を上げた時

マイクを持つ手首にはっきりと分かる火傷痕が

まるで思い出のように私の目に灼きついていた

 

譜奏424