雨の夜にだけ思い出す人がいる
涙が忘れてくれないの
ひどい恋だったのに
悲しみだけが
心を満たしてくれるなんて
そんな歌だった
多分私の母くらいの年齢だろう
銀飾りのドレスが痩せたジャズシンガーの身体を包んでいた
私はその歌声に不意をつかれていた
この歌はこの人のことに違いないとしか思えなかったのだ
私がこの人をこの歌を抱きしめられる日がくるのだろうか
こぼれそうな涙を拒んでうつむいていた目を上げた時
マイクを持つ手首にはっきりと分かる火傷痕が
まるで思い出のように私の目に灼きついていた
譜奏424