2019年8月12日

セーニョを弾き忘れた点字楽譜が

コード上に置き去りにされているのを

月明かりが露わにかすめる夜

滅びることで保てる美しさなどあるはずがないのだと

私は盲目のままに歩くようにただ怖れていた

そして悪態をついて私は自分の弱さを防御してきている

きっとそのせいだろう

放出されない感思がいつまでも胸の真円に添えず

不形成な蝶紋のように偏ったまま動かなくなっていた

私は改めて今の現実を受け入れることに躊躇して

いつかこの紋が表皮に表れて

私の主体の終わりを飾ればいいと妄想していた

翔びたってしまえば私は美しいのだからと

それがたとえ誰しもが目を背ける魔物のような死であってもと

 

譜奏414

2019年8月9日

誰にも見られていないと思ったら

自分を嘲けりながら生きていってもそれはそれでそれなりに

サマになっていくの女って

だから衝動を抑えるのは昔から苦手なのよと

彼女は抑揚のない声で言ってから

周りのすべてに興味を失くしたように表情を消すと

つまらなさそうに紫色のネイルチップを撫でだした

この女もそして私も実のところ似たり寄ったりで

歪み方の最後の形が違っただけと私は苦々しく感じていた

生きるということがいつまでたっても解らないことだらけだけれど

そもそも女の人生って

誰かに観られていなければ

一人道化のメイクをして声を出さない

さびしいだけの仮面劇のようだと思った

 

譜奏413

2019年8月7日

見覚えのある本棚の前に座っていたが

それが度々私に訪れる夢の中でのことだということは分かっていた

そして何故私はここに座っているのかも私は囚人のように知っていた

何度も与えられたシチュエーションで引き出しを開けられない私を

家鳴りが威嚇するように奇声を発している

私は昨日の夢の部屋のドアを再度押して幻のような机をみつめた後

今日こそはと思う気持ちで透けた手を引く

そして鍵がかけられていた日記帳の鍵を殺すように壊し

誰にともなく幻のようにでもなく息を飲む

やはり

体液でなぞったような言葉が這う川のように

いや違う

そこには予め決められたと思える異邦の罪文が

望まれない聖別のように整然と並んでいるだけだった

 

譜奏412

2019年8月5日

ただ潮汐に引かれ

私自身が真円になることを願って

私は宙を見上げてきた

私が憎んでいたのは

あなたではなく

私が主星じゃないあなたの

キラキラと光っているように見えた夢だったのかもしれない

地の球花に永遠はなく

ただ青磁色の鎧を纏うだけだから

望んだ情熱に倒れると

その魂さえ

ゴミのように

色を奪われて

燃やされてしまうだけなのだ

 

譜奏411