2019年12月6日

小屋の楽屋に入ると脂粉の香りが充満していた

何度か打ち上げで顔を合わせた照明さんや若い踊り子に会釈して

吊るし衣裳をかき分けて奥に行くと彼女はまかないのカレーを食べながら

ごめんごめんちょっと待っててすぐ着替えるからと私に微笑んだ

鮮やかな銀飾りのドレス姿だったがむしろその鮮やかさが

今日の私には残酷な華やかさに見えて一瞬視線を落としていたようだ

彼女は高校を中退して男の子を産んでダンサーになると言って

突然着の身着のままでひどい雨の日に私を訪ねて来たことがあった

何故かそんな昔のことを思い出していたら

彼女は私をみつめて見透かすようにニヤッとして悪戯っ子のように

あなたはちょっと辛辣だけど正直だよねと言って

だから考えてることがわたしには全部わかっちゃうわよと笑って

でも大丈夫なの

嘘は毎日だからと言った

 

譜奏463