忘れるという出来事は救いなのか呪いなのか
どちらにせよこれは最も答の出ない問いに違いない
思い出したくないことを消してしまおうと思ったら
人は過去を手放すしかないだろう
しかしそうしたとしても上手くいくとは思えない
記憶の分別は労多く実りの約束されない不毛な作業だからだ
私は案外忘れようとする意思がむしろウィルス化し
記憶に決して消せない瘢痕を遺すことになるのではと危惧している
潜在意識とはそれほどに思うようにならない得体無き魔物なのだ
やはり人は嗜好の都合で生きてはいけない生き物なのだろう
平坦な考えのように思うがすべてを受け入れてこその人生ではある
私はふと忘れてしまいたい出来事を箇条書きにしてみようと思い立ち
ボールペンを持ちノートの新しいページを開いて睨んでいたが
結局朝まで石のようになって一文字も書けない自分を笑っただけだった
譜奏432