夢の中でしか思い出せないデッサンのような街を
粗い鉛筆の線で書かれた私が風に吹かれて歩いている
頬が丸くなって切ったことのない髪が短くなっていた
春の風が恋しいと思えるほど尖った風の中で
私は何処かに向かっている意識もなく
さらに歩いている実感さえ持っていなかった
ささやくようにかすかな雨の匂いがしていた
もし匂いを押しやって雨粒が落ちてきたら
この仮の絵にはきっと
雨のための新しい線が引かれるのだろうと思っていた
できることなら私はその線で重ねられて遮断されて
形を失くした雑線になっていたいと思った時
サテンのようにサラサラと揺れる髪が目に入って
この髪が消えてしまうのは少し悲しいとも思っていた
譜奏323