一回の呼吸で
希望を吸い込んで
孤独を吐き出すように生きてきたことに気づいて
夢みたいに思えた夢を確かめるために
暗いアスファルトの道に飛び出した
身体が走ることを望んでいたのだろう
心が傷つくことを願っていたのかも知れない
そして化石のようになっていく時間の闇に私は座っていた
今になって
一人の夜に
あなたは何をしてきたのかと聞かれても
私はベッドの中で寝つけずにいたと言う
私の息が覚えている限り
ただずっとと
譜奏244
一回の呼吸で
希望を吸い込んで
孤独を吐き出すように生きてきたことに気づいて
夢みたいに思えた夢を確かめるために
暗いアスファルトの道に飛び出した
身体が走ることを望んでいたのだろう
心が傷つくことを願っていたのかも知れない
そして化石のようになっていく時間の闇に私は座っていた
今になって
一人の夜に
あなたは何をしてきたのかと聞かれても
私はベッドの中で寝つけずにいたと言う
私の息が覚えている限り
ただずっとと
譜奏244
平均律を弾く時にダンパーを踏むと
フォルテにオクターブの連打をしても
出てくる音は消えているはずの柔らかさに削がれ
途切れた韻律しか遺さない
それが楽章の頭から弾けない理由になり
コーダからを繰り返す頑なさを生み出す
指は暗譜した鍵を追っているように
その1音を置き去りにしているとも見えるように
離れては叩く不毛の漂いの中を過ぎていく
終章にはリテヌートだけが待っている
肩を開いて全ての休符を潰して続く3連符が
光の静寂音に聞こえてくるまでに繋ぎ続けることができたらと
私はその1音の輝きの粒の無機なる闇に
目を凝らそうとするほどにただ取り憑かれていた
譜奏243
爽やかに生きているように見える人が羨ましくて
負けないで誰よりも爽やかに生きること
私は光る宝石のようにそれだけを自分に強いてきたところがある
だからその維持が捻れたと思えた時
私は激しく落胆し自分を卑しい者に感じてしまっていた
答が出ず苦しまぎれにそんな自分を突き放してみたら
私の何かを見えにくくしたい意志のように
二方向に分かれている道のどちらかは
フェイクなのではないかと疑う気持ちが現れて
そうするとこの丁字路の存在自体が
何故かあっさり辻褄が合ってしまったような気がしていた
人間は自分をあまりに近くでしか見ていないと
潔癖という嗜好品に毒されていくばかりなのかもしれない
爽やかさも同じ族だと思ったら苦笑いするしかなかった
譜奏242
人の心の森で迷子になったら空を見上げてはいけない
見えない境界線が一瞬にして周りを夜の闇に変えるから
闇は目を凝らすと黒ではなく深い艶のある緑色をしていて
色でもない湖を月光の邪気でその面を蒼に揺らしている
そして下を向くと孤独の使いのように
薄霧が形を変えたような蝶が現れる
本来なら生命を持たない闇と邪気の異間にだけ羽を広げる青い蝶
その色彩さえ危うげにして舞う異端の蝶に心を奪われて
命の時間を影の長さで示しているのを目撃したように
人は悲しみを避けた道で悲しみに遭い
苦しみを避けた道で苦しみに沈み
運命を避けた道でその運命と鉢合わせする
乾燥したノコギリソウをベッドに吊るして
何かの愛が長続きすると信じた罰のように
譜奏241