2018年7月11日

一回の呼吸で

希望を吸い込んで

孤独を吐き出すように生きてきたことに気づいて

夢みたいに思えた夢を確かめるために

暗いアスファルトの道に飛び出した

身体が走ることを望んでいたのだろう

心が傷つくことを願っていたのかも知れない

そして化石のようになっていく時間の闇に私は座っていた

今になって

一人の夜に

あなたは何をしてきたのかと聞かれても

私はベッドの中で寝つけずにいたと言う

私の息が覚えている限り

ただずっとと

 

譜奏244

2018年7月9日

平均律を弾く時にダンパーを踏むと

フォルテにオクターブの連打をしても

出てくる音は消えているはずの柔らかさに削がれ

途切れた韻律しか遺さない

それが楽章の頭から弾けない理由になり

コーダからを繰り返す頑なさを生み出す

指は暗譜した鍵を追っているように

その1音を置き去りにしているとも見えるように

離れては叩く不毛の漂いの中を過ぎていく

終章にはリテヌートだけが待っている

肩を開いて全ての休符を潰して続く3連符が

光の静寂音に聞こえてくるまでに繋ぎ続けることができたらと

私はその1音の輝きの粒の無機なる闇に

目を凝らそうとするほどにただ取り憑かれていた

 

譜奏243

2018年7月6日

爽やかに生きているように見える人が羨ましくて

負けないで誰よりも爽やかに生きること

私は光る宝石のようにそれだけを自分に強いてきたところがある

だからその維持が捻れたと思えた時

私は激しく落胆し自分を卑しい者に感じてしまっていた

答が出ず苦しまぎれにそんな自分を突き放してみたら

私の何かを見えにくくしたい意志のように

二方向に分かれている道のどちらかは

フェイクなのではないかと疑う気持ちが現れて

そうするとこの丁字路の存在自体が

何故かあっさり辻褄が合ってしまったような気がしていた

人間は自分をあまりに近くでしか見ていないと

潔癖という嗜好品に毒されていくばかりなのかもしれない

爽やかさも同じ族だと思ったら苦笑いするしかなかった

 

譜奏242

2018年7月4日

人の心の森で迷子になったら空を見上げてはいけない

見えない境界線が一瞬にして周りを夜の闇に変えるから

闇は目を凝らすと黒ではなく深い艶のある緑色をしていて

色でもない湖を月光の邪気でその面を蒼に揺らしている

そして下を向くと孤独の使いのように

薄霧が形を変えたような蝶が現れる

本来なら生命を持たない闇と邪気の異間にだけ羽を広げる青い蝶

その色彩さえ危うげにして舞う異端の蝶に心を奪われて

命の時間を影の長さで示しているのを目撃したように

人は悲しみを避けた道で悲しみに遭い

苦しみを避けた道で苦しみに沈み

運命を避けた道でその運命と鉢合わせする

乾燥したノコギリソウをベッドに吊るして

何かの愛が長続きすると信じた罰のように

 

譜奏241