2018年3月12日

夜の風を怖がったようなネコが

人を避けて路地に消えていく時に

私の目と鉢合わせになって挑むように見返していた

私の優しさはいつものように表に出ず

その小さな体を案じているのにと思っただけだった

私の心の鏡は何かの意図のように私を曖昧にしか写さない

そのフラストレーションに原罪の無形な気配が膨らむ

人間は天使にも悪魔にもなり切れないなんて軽口を言って

そんな大人好みの光沢をしたファンタジーに飛び込んで

そんなイラストの中の私になって

神さまに一つだけ希いを言えるなら

私の中でいつまでも消えないいくつかの時間に

自由に催眠術をかけることの出来る力をと

今夜私はきっとそう言うだろう

 

譜奏192

2018年3月9日

今日

都会では珍しい白い鳥が飛んでいるのを見た

私はその名前を知らない

そう思った時

その回路の先に懐かしい感情を置き忘れていたことを思い出した

ある日初めて夢というオーロラを見上げながら

私が感じていたのは希望というものではなかった

ただ私はこの夢が何の痕跡もなく消える日のことを恐れたのだ

得ることより失うことに過敏な私を嗤うように

根を探れない暗室のような部屋に切れ落ちた音が

無地の栽落のように反応して

私自身さえ写せない感光板のように

不機嫌な銀溶液に小さく

悲しいリズムのように揺れていた

 

譜奏191

2018年3月7日

太陽のフレアに気づいたように

不規則な煌めきの中で鼓動を過り

私の色を変えていく

光の波長

その輪郭線が暗がりに現れて

ジャズに心預けるphraseに

溺れるように

アルペジオを舐める指がchordを這っていく

命という重力

その基点を

どうして辿れると信じたのだろう

本当の私など

誰も

私も知らない

 

譜奏190

2018年3月5日

孤食を繰り返すしかない人の

孤独は思い出を冷やしていく

冷たくなった思い出は

今ある現実に宿らなくなり

色の無い映像になって

思い出すたびにリフレインをやめない

その繰り返しは過ぎた日に向かい

今から離れ

どんどん冷たくなっていく

それが孤独の正体のように

私が月を嫌悪したのは

萎んでいく人が土のように身を伏したのに

その姿を月が生け贄のように見て

笑っていたから

 

譜奏189