2017年11月20日

青い音

その表面は絹というよりベルベットのように見える

背景の黒闇がむしろ絹のようだ

私はその青を追い虹彩で触る

ストリングスがしなやかに伸びて

静寂を布のように巻き付けてきて

私に戯れつくように

近づいたり離れたりしている

私と共感覚の音との繋がりは

悲しみの淵で怯えていた壊れた夜から始まっていた

何もかもを赦すやさしい旋律のようにそんな夜は続いていた

羽化したように現れてきた私の意思が

払うようにその布を掴み捨てようとした

白い夜明けを見るまでは

 

譜奏143

2017年11月17日

人の心に宇宙があるのなら

その成層圏を分かつのは

社会生活で得たすべてのロジックの理そのものだ

調和と円滑

情緒の噛み合わせとそのタイミング

言葉にならないその他の理という軟体からはぐれたもの

人の命が発する微毒

のようなもの

その全て

それらは制限する

その組み合わせ以外のすべてのものを

その結果人の心は強ばり自由な空間が軋んでいくのだ

ロジックは語りすぎる

その理こそ人には猛毒に違いない

 

譜奏142

2017年11月15日

目が覚めたら

カーテンから夏の夕焼けの切れ端が見えていた

浅い夢は悪い夢を見る巣窟だと知っていても

自力では抗えもしない

人は意味を求める生き物だ

眠っている時にこんなに苦しむ夢に

何かの意味が与えられているのかはいつか知りたい

これまでに私は色の無い砂浜や都会を歩いていたりしていた

泡の分だけ歌いながら湖に沈んでいくこともあった

廃坑の鉱山の岩場を裸足で歩いて泣いていたりもしていた

私の見る夢には私しか出てこない

私は怖れているのかもしれないと思った

愛を得ることや失なうことを

そのどちらにもある哀しみを受け入れることを

譜奏141

2017年11月13日

宙から空に落ちていくように

見知らぬ街の遠くから聞こえたカリヨンの音が

風追う旅人の背を反響板のように響かせた夜

私の胸に迷い落ちてきた単音が弾くように私を

その夜そのものを

共鳴の一体にして私の身体に消えていった

私は反射的に魂を屈めて身構える

どんな運命であれ運命など

初見はいつも異物でしかないのだから

夢に引かれるように共鳴は眠りに向かっていく

いつしか櫛歯のようになった私と単音が意識し合うその場所まで

ただ平安に

そして奏でられるようなカリヨンの弾かれた一音を

私は空を破れない風のように聴いていたのだ

 

譜奏140