青い音
その表面は絹というよりベルベットのように見える
背景の黒闇がむしろ絹のようだ
私はその青を追い虹彩で触る
ストリングスがしなやかに伸びて
静寂を布のように巻き付けてきて
私に戯れつくように
近づいたり離れたりしている
私と共感覚の音との繋がりは
悲しみの淵で怯えていた壊れた夜から始まっていた
何もかもを赦すやさしい旋律のようにそんな夜は続いていた
羽化したように現れてきた私の意思が
払うようにその布を掴み捨てようとした
白い夜明けを見るまでは
譜奏143
青い音
その表面は絹というよりベルベットのように見える
背景の黒闇がむしろ絹のようだ
私はその青を追い虹彩で触る
ストリングスがしなやかに伸びて
静寂を布のように巻き付けてきて
私に戯れつくように
近づいたり離れたりしている
私と共感覚の音との繋がりは
悲しみの淵で怯えていた壊れた夜から始まっていた
何もかもを赦すやさしい旋律のようにそんな夜は続いていた
羽化したように現れてきた私の意思が
払うようにその布を掴み捨てようとした
白い夜明けを見るまでは
譜奏143
人の心に宇宙があるのなら
その成層圏を分かつのは
社会生活で得たすべてのロジックの理そのものだ
調和と円滑
情緒の噛み合わせとそのタイミング
言葉にならないその他の理という軟体からはぐれたもの
人の命が発する微毒
のようなもの
その全て
それらは制限する
その組み合わせ以外のすべてのものを
その結果人の心は強ばり自由な空間が軋んでいくのだ
ロジックは語りすぎる
その理こそ人には猛毒に違いない
譜奏142
目が覚めたら
カーテンから夏の夕焼けの切れ端が見えていた
浅い夢は悪い夢を見る巣窟だと知っていても
自力では抗えもしない
人は意味を求める生き物だ
眠っている時にこんなに苦しむ夢に
何かの意味が与えられているのかはいつか知りたい
これまでに私は色の無い砂浜や都会を歩いていたりしていた
泡の分だけ歌いながら湖に沈んでいくこともあった
廃坑の鉱山の岩場を裸足で歩いて泣いていたりもしていた
私の見る夢には私しか出てこない
私は怖れているのかもしれないと思った
愛を得ることや失なうことを
そのどちらにもある哀しみを受け入れることを
譜奏141
宙から空に落ちていくように
見知らぬ街の遠くから聞こえたカリヨンの音が
風追う旅人の背を反響板のように響かせた夜
私の胸に迷い落ちてきた単音が弾くように私を
その夜そのものを
共鳴の一体にして私の身体に消えていった
私は反射的に魂を屈めて身構える
どんな運命であれ運命など
初見はいつも異物でしかないのだから
夢に引かれるように共鳴は眠りに向かっていく
いつしか櫛歯のようになった私と単音が意識し合うその場所まで
ただ平安に
そして奏でられるようなカリヨンの弾かれた一音を
私は空を破れない風のように聴いていたのだ
譜奏140