明るい場所
薄暗い場所
明るい場所の陰
薄暗い場所の明かり
人一人の心の中の
一人の場所
咲いて落ちていく
月下美人の花びらの
形のままの陰を覆う
夜の闇
白いがゆえの
影の闇
暗いがゆえの
白き花弁
譜奏113
明るい場所
薄暗い場所
明るい場所の陰
薄暗い場所の明かり
人一人の心の中の
一人の場所
咲いて落ちていく
月下美人の花びらの
形のままの陰を覆う
夜の闇
白いがゆえの
影の闇
暗いがゆえの
白き花弁
譜奏113
私のおとぎ話は
絵本や玩具や片時も離れない縫いぐるみなどが
絵本は絵が
玩具は玩具が
縫いぐるみは縫いぐるみ自身が動いて
私の目に話しかけてきて
一緒に遊びだす特別な空間だった
その空間に一人でいたいと思うようになった寂しい夜
私に対価の憎しみを吹き込んできたのは
変貌していくことでしか流れない時そのものだった
打ち捨てられた波が脱塩していく時間のように
私は長い間その様子を眺めていた気がする
一生消えないと思える悪意を感じながら
私は何故か頬を緩めて微笑んでさえいたのだ
譜奏112
自分が年老いる実感を認めた夜
私は咄嗟にカーテンを破るように開け
蒼白く滲む半月を見上げた
あなたは
変わらない
少なくとも100年ぐらいの間は
追いかけるように生きてきた時間が
費やされるものに差し替えられることを
素朴に認めなければならないことに
鼓動に反応した心臓から血が引いていく
傷ついた花枝を手折るようにでも
誰か言って
私は魔物の矢に酔って
熱の夢を見ているのだと
譜奏111
星に希いを
月に祈りを
その気になれば
聖人にもなれる
その気になれば最低の悪女にだって
演じるのなら
大して無理なくやれる
だって自分以外になるテキストは
この世に溢れているのだから
何にだってなれるの私は
自分以外になら
見上げた希いを祈りを
偽りに星を月を
殺してさえしまえばいいのだから
譜奏110