2017年5月12日

伸び始めたばかりの葉に

どんなにやさしく雨が落ちても

やがて葉は風にさらわれ

恵みを受ける力を失う

悲しい出来事はその個に

唯一の動機を持たせることはない

人生は

気まぐれなテロメアが造る

ランダムな色彩のようだ

だからと私は思う

生きるという実態は今この時の

一瞬の

情熱の堆積にしか

見出せないのだと

 

譜奏61

2017年5月10日

夢を持つ

持ちなさい

この定型句を脅迫のように感じて

人は演技者の大人の素振りで

駆け引きを覚えると

それに花を添えるように

恋にも同じ振る舞いで向き合う

異質の血で拒み合う

汚れた注射器を使い回すように

次は人生?そのもの?

だったらぐるぐる回って

ぐるぐると

白く美しい夢箱の

回転木馬のように

 

譜奏60

2017年5月8日

私を支配してきた

パステル画のような色彩を

本質を

疑う夜

落としたグラスの

飛び散ったガラスの破片が

数え切れないパズルのように

私の足下で光っていた

人生は得るものなのか

費やしていく性質のものなのか

そう考えようとすること自体が

すでに

過ちなのかも知れないと

うそぶいているかのように

 

譜奏59

2017年5月5日

今日街で

寂しい人とすれ違いました

私に似た

痩せた輪郭の寂しさでした

なのにブラウスには赤と黄色の

薔薇の刺繍がありました

私は咄嗟にみすぼらしいと思い

尖った視線を投げました

その時不意に

その人が振り向きました

私と同じ色をした目でした

私は悲しい気持ちになり

私から逃げるように

背を翻しました

 

譜奏58