2017年11月29日

深い悲しみに浸ったら

その毒を吐き出すために女は

誰かの悲しみにつけ込む

私もそうよ

だから気が済んだのよと

廃船の鉄錆に人差し指を押し付けて

女は何かの文字を書いた

わずかな陽光が一瞬彼女の荒んだ細い髪の毛を掠めた

相手のことは考えないの?どうしてこんな船にいるの?と

私は聞こうとして息を飲む

その息が雫のように形を作って錆びを削っていく気がしたからだ

そして見透かすように彼女は高笑いをして私を睨んで言った

何よ忘れたの?

水よ私はあなたの

 

譜奏147