2018年12月19日

目に見えるものしか信じない

形が有るものしか認めない

昔よく耳にしたフレーズのような気がするけれど

そういう人も苦しい時には祈るのだろうか

今の若い世代の人たちはどうなのだろう

日常に携帯電話は欠かせないし

電車もカードの磁気信号で乗っている

家に電気が無ければ明かりもテレビも冷蔵庫も動かない

ただ科学技術の進歩と片付けて考えることもないのだろうか

私はイタズラな気持ちでパソコンに愛と打って

意地悪な質問を続けながらじっとモニターを見ていた

もしかしてその文字が動いて話し出すかもしれないと思ったのだ

そんなはずはないのだけれど

答えられてもすごく困ってしまうのだけれど

 

譜奏313

2018年12月17日

楽屋口から深夜営業の店に向かって歩いて

何も聞かないでと言う彼女の前に

私はドリンクバーで淹れたコーヒーを置いて

そして長い時間黙り込んでいた

涙が出ていないだけの泣き顔は永遠のように動かなかった

彼女は青春のほとんどを下積みに費やして

やっとコミカルなキャラでミュージカルに呼ばれるようになって

今日の楽日まで明るいだけの中性を見事に演じ切っていた

知ってるんでしょと聞かれて私は目を伏せた

ピアノしか無かったのよあの子の部屋に

その下で寝てその下で死んじゃったから

私はメイクを落としていない彼女のアイシャドウを見ていた

そしてやっと流れてきた涙をただじっとみつめ返していた

聞こえてくるジングルベルがリフしないようにと願いながら

 

譜奏312

2018年12月14日

絵は見て欲しいと額に飾られている

ラブソングは誰かが誰かを愛しいと歌っている

川は雨を身ごもって海のシリウスに流れ

植物は光をもっと食べようと空だけを見上げている

なりたいモノになっていない色は褪せても動けず

愛は嗜好品の定めで続けて投げかけていかねばならず

奇跡の数の

ごくわずかなコンセンサスしか残さない

花は命を繋ぐ生死のために恋を振る舞うのに

当然枯れると知りながら

人間だけが切って挿して部屋に飾る

そして夜と昼が回し車のように繰り返され

繰り返さない静寂だけが

不眠症の哲学者のように眠らないのだ

 

譜奏311

2018年12月12日

オレンジが上手く剥けなくて

ナイフで横切りにしたら花が咲いたように開いて

私は何だか悲しくて

スプーンでぐりぐりと果肉を潰して

溢れてくる果汁の色をみつめていた

いつかこの色を傷のように思い出すと思いながら

今夜はベランダからキレイな星がたくさん見えていた

私はぼんやりと人の心にはいくつの扉があって

いくつの鍵が必要なのだろうと思いながら

見える星の数を数えようとする誘惑から逃げた

その夜魔女のような髪型をして鏡に写る私の夢を見た

失くした子の写真に本を読んでいる人のように

娼婦のような気分になって歩いている少女のように

その目には何の色も映し出されていなかった

 

譜奏310