2017年8月23日

大気

人間の暮らしは目に見えないものが支配している

それらはあまりに当たり前過ぎて

人を油断させる

その線上に何らかのロジックが用いられているとしたら

感情というスピンオフは内在にとどまることはなく

飛沫となってその場に刻まれていると考えた方がいい

素敵に怖い話

形有る物しか見ない油断の正体は

きっとぼんやりとした潜在的な恐れなのだ

仕組まれたロジックの意図を計るように

私たちを支配している何者かの息の気配を

人は祈りの心で聞くべきなのかも知れない

 

譜奏105

2017年8月21日

永遠という言葉を知らない頃

私はこのままずっと生きて

手に持っていた花は

ずっと咲いたままだと思っていた

私はただ元気に溢れたワガママな子供だった

大人になって人を喪くして

教会の葬儀でバラを祭壇に置いた時

私は供えられて並ぶ花の枯れる姿を思い浮かべて泣いた

死の現実が私の精神に宿った痛みだったのだろう

雨に打たれた帰り道

人生は少し自分に誠実さを欠きさえすればそう難しくはないと

私は実を付けない徒花のように弱い顔になって

私の永遠を遠い景色のような距離に置くように

坂下の行き止まりの海に目を落としていた

 

譜奏104

2017年8月18日

わたしが一番キレイだった時

空は鈍色で

粗末なものを食べて

粗末なものを着ていた

わたしが一番キレイだった時

わたしは一番淋しくて

気持ちは痩せて

心は飢えていた

でも何故か思い出すの

あの頃のことばかりを

どこかに何かがあるような

そんな気ばかりして

胸に宿る青白い熱を

抱きしめていただけのわたしを

 

譜奏103

2017年8月16日

無垢の白

白が落ちて開いた

白い花

自身以外の色を

せめぎ合わせる運命さえ

知る由もなく

無邪気に風に揺れ

少女の私の胸に遺って

あどけなくその目に着床していた

始まりの白

流浪の旅を続けた私の空に

その空の下を過ぎてきた時代に

美しい花の名だけを

置き棄てたように

 

譜奏102