似合わなくてもいい
私は少女の頃から赤いパンプスを履く自分を夢見ていた
そして18のある春の日にとうとう待ちきれなくなって
私は遠い街まで行って秘かに買っていた夢のパンプスを履いて
誰も私を知らない繁華街を女優のように微笑みながら歩いた
しかしその時不運の雨が降りだしてきて
私は身体より赤に合わせたブラウスよりパンプスが気にかかり
走ってカフェに飛び込んで新しいハンカチで雨粒を拭き取ったのに
何故かその時その赤が急に見飽きたもののように思えてしまって
やっぱり私には白のパンプスのほうが似合うように思えてきて
そう思ったらさらに赤が褪せたように思えてきて
シューズに履き変えて帰りの駅のゴミ箱に裸のままの赤を捨てていた
そしてふとこのブラウスは何てこのシューズと合わないんだろうと
悲しくなってなかなかこない電車を俯くように待ち侘びていたのだ
譜奏431