向日葵とわたしを座らせて描いてくれていた父の姿が
影絵の劇のように胸に残っていると言ったあと
生涯働かない父だったけどねと彼女は笑った
銀の指輪がグラスに当たって小鳥の鳴き声のような音がしていた
そんな父が認知症のまま死んでしまったあと
わたし
なんとなく酒びたりになっていったみたい
父のアトリエに入るのが怖くて盛り場に居着くようになって
そしてなんとなくJAZZを歌うようになっていたの
JAZZを歌っているとね、悲しみが美しく思える夜があって
上窓からこぼれる月の虹を見上げながらわたし
廃屋のようになっていたアトリエに火をつけたの
遠い昔の話だけどねと微笑みながら彼女は右手に目を落として
そして柔らかな頬で私の目をみつめ返してくれていた
譜奏428