2019年6月12日

誰にも気にも留められなかった子供は恐る恐る境界に立ちながら

どちら側の線も越えずに大人になった

自分では裸足で歩いてきたと思っていた

ある時街で赤い服を見かけた

アルバイトをしたお金が貰った封筒のままバックに入っていた

試着しないで大丈夫ですかという声に答えずに

彼女はその服を買い部屋の壁に飾った

冬の冷たい雨が降る日には1日ぼんやり見ていることもあった

蛍光灯の光が嫌いで部屋には白熱灯のスタンドが2つあるだけだった

1週間が過ぎた頃

壁の赤が日に日に年老いていくように感じるようになっていた彼女は

腹立たしくなって取り出したハサミで服をずたずたに切り裂いた

その後で畳に散らばる赤が

紅葉のように鮮やかになっていくのをただみつめていた

 

譜奏388