冷蔵庫の隅に食べ忘れていた林檎を見つけ
捨てるしかないと思ったけれど
その萎みかたに申し訳なさを覚えて
私は銀のボウルに水を入れてその林檎をやさしく落とした
林檎は水分を失くして痩せていたのだろう
何度落としても沈むことはなかった
私は水道の蛇口を力いっぱいに開いて
水流に迷惑そうに遊ばれるその様子を
たださびしい気分で眺めていた
愛に似てる
私はそう思っているようだった
最初に沈んでくれればよかったのにとも思っていた
愛は何かで相殺することなど出来ないと
知っているはずだったから
譜奏294