音の出るドアを開けると黒茶っぽい板が敷いてあって
その上を歩くと何十年も変わっていない古い木の音がして
見慣れた焦げ茶のテーブルと暗い赤の椅子が見えてきて
何故かいつも空いている一番奥の窓際に私は座って
窓から見える痩せた何かの木の先の通りを見ていたりしていた
あの頃の人はもう誰もいない
しかし変わらない濃い珈琲の香りが主のように立ち込めていた
昔はこの場所が好きだった
そして髪形を気にしていたその頃の私が好きだった
熱情だけに魅かれて私は丁寧に生きることを忘れ
多くのことを気にも止めずに走ってきたように思う
でも解っていた
私は振り返ろうとしている訳ではないと
寧ろちゃんと置き去りにしようと決めて此処に来ていると
譜奏400