もうすぐ閉店時間になる人もまばらなカフェ
すっかり冷めたモカの残りを飲んで立ち上がろうとする時
ツンと
鼻から額にかけていつもの匂いがして
私はいつもそこにいる知り合いに会ったように
苦笑いのように会釈する
匂いの主は若くて未熟だった私の衝動だ
親しくもならず記憶にもならず金属臭のようになって
主はこの条件の環境の時にだけ現れてくる
すごく長く過ぎた時間の何処かに
私はきっとうち捨てるように埋めたのだろうと思う
邪魔にしかならないその衝動の損傷のようなものを
しかし今はその不安さえやさしく私を包む
またここにやって来る私を知る待ち人のように
譜奏253