高層ビルのラウンジの窓際席に座って
私は黒いマッチ箱にしか見えない車や
虫たちのような人の流れていく景色を見ていた
こうしていると私はいつも同じことを考える
人が唯一解り合える共有は痛みの他にはないのだろうと
その証に時に痛みを癒す養分など含まれていない
ただ愚鈍に風化させるだけの役割でしかないのだと
この店ではこの国では珍しくファドが流れる
遠く離れた異国の地で紡がれた異端の音楽
哀調のファド
そのアルペジオが奇跡に問うように漠然と奏でられて
そして私は考える
私は何故ここにいるのだろうと
今私の運命は空腹なのかも知れないと
譜奏177