2020年2月19日

微笑んでいると思っていた都会の夜光が

私を無視し続けている微生物のように思えて

夜が明けると街そのものが鬱蒼とした墓石の群れに見えていた

この中で人は何故せめぎ合うのだろうと心では思っても

それを言葉にするには虚さにあまりにも圧されている自分がいて

私は一度もそのことを音にして唇から出したことはない

昔父が読んでくれた異国の花園の物語の枕声が私の胸の地に疼く

その物語の主人公の少女は愛してやまない陶器の人形を抱いて森に行き

人形は自分が愛したようには愛してくれなかったと嘆き悲しんで

そしてその人形を大きな木の下に埋めて帰ってくることはなかった

そんな物語だった

少女はきっと疑ってしまったのだろうその微笑みを

あるいは愛し過ぎたことでその熱に溺れてしまったのか

今も立ち去れないまま陽に重ねた夜光を追うだけの私のように

 

譜奏496

2020年2月17日

銀のベールのような空の下を若いとは言えない女が歩いていた

砂の沈む音だけが生き物のように聞こえてくる

裸足で感じていてもここが砂漠なのか砂浜なのかは分からなかった

そんな夢を見た秋が過ぎて今私は厚手のコートの襟を立てて歩いている

彷徨っているということでは夢も現実も大差などない

そのリアルな実感が私にはすごく嫌な感触の後遺症になっていた

きっとその内に私はまた砂の面を歩くだけの夢の続きを見るのだろう

行き着く場所が用意されていないと知りながら

何かに無抵抗なままに操られている気がして私は一計を案じて

スケッチブックとクレヨンを買って見たままの絵を描きだした

そして最後に大きな円の湖の面を青で強く引いて塗り潰してみせた

限りのない遥かな砂の面を私は砂漠と感じていたのだ

何に向かってかは分からないまま私は顎を上げて歪んだように笑った

そして最後に美しい少女は水彩で描かなきゃとだけ思っていた

 

譜奏495

2020年2月14日

りんごの香りがする嘘や憎しみを得意とする人がいる

しかし本人にその香りは届かない

その木を植えてそのように誘導しようとした何者かがいるからだ

一緒にいると胸の空白が埋まるとでも囁いて

人はいつか決定的な判断をしなくてはいけない時がくる

その時に信じる何かを持つ人は恵まれているだろう

しかしそれが祝福されたものなのかどうかは解らないままだ

花を見ることはあってもその種を手にしたことはないのだから

いつのまにか心に根付いたモノの始まりを知らない不安は

過ぎ去る時を含んでやがて恐怖のような力に変貌していく

その変化に抗う手立てを持たないことが予め約束されていたかのように

月下に作られる無数の陰は何かの意図を持つ意思ある物なのだろうか

私の目にはいつもやさしく柔らかく投げかけてきてくれるけれど

思えばそれは囁きには似て何の香りもしないのだ

 

譜奏494

2020年2月12日

人は社会に何かしらの制約を受けて生き方を制限されている

だから比較がのさばってたくさんの歪みに絡み取られることになる

比較するって人間にとって最大最強の毒癖に違いない

もちろん可愛い比べもあるがほとんどは強い精神毒だろうと思う

私は政治的な考えやイデオロギーなど鼻っ紙のように思うタチだから

自分の生きる土俵はそこには無いと考えて彷徨った

それがそのまま私の青春期になっている気がしている

自分を生きるというのはその言葉通りのことでしかない

ある意味それはまだ無価値でこれからだというスタートに過ぎない

そこに価値があるという風潮?は歪みが産卵した無精物だろうと思う

何故こんなに愚痴ってるのだろうと自分でも思ってしまうが

要は最近ちっとも面白くないのだ

身勝手に好き放題に自分の精神だけを柱に迷惑三昧な人生を送っている

そんな人が懐かしくて切なくて会いたくて仕方ないのだ

 

譜奏493