2020年2月14日

りんごの香りがする嘘や憎しみを得意とする人がいる

しかし本人にその香りは届かない

その木を植えてそのように誘導しようとした何者かがいるからだ

一緒にいると胸の空白が埋まるとでも囁いて

人はいつか決定的な判断をしなくてはいけない時がくる

その時に信じる何かを持つ人は恵まれているだろう

しかしそれが祝福されたものなのかどうかは解らないままだ

花を見ることはあってもその種を手にしたことはないのだから

いつのまにか心に根付いたモノの始まりを知らない不安は

過ぎ去る時を含んでやがて恐怖のような力に変貌していく

その変化に抗う手立てを持たないことが予め約束されていたかのように

月下に作られる無数の陰は何かの意図を持つ意思ある物なのだろうか

私の目にはいつもやさしく柔らかく投げかけてきてくれるけれど

思えばそれは囁きには似て何の香りもしないのだ

 

譜奏494