Je l’aime

―――――いつか 闇の中
―――――手探りで あなた探した

―――――――――『Je l’aime』より

 

遠くに聴こえる

横に引かれた柔らかなノイズが

波の音と気づき

風に押されるように歩いたら

私はいつしか

潮騒に消え

恋に苦しむ女になっていた

私が海ならと希い

この海が旅人ならと希った

何故なら

私はまだ幼く

湖面の月を揺らして遊ぶ

あどけなさに

包まれていたかったから

 

譜奏49

2017年4月12日

私の問いに対峙して

立体して

四角の墓標のように眠る

都会の闇に群れた

かげろう達の雨の夜

走り去ったヒールの音も

破れた叫び声も

孤独の骸も

ただ流されることもないままに潜み

地にせめぎあうままに

私は置き去られていた

ガラス窓を這う滴が視界を刺し

虹のような宝石に踊った

その一瞬から

 

譜奏48

2017年4月10日

平坦な退屈の中には

それ故の平安があるものと

社会は匂わせ

多くの人はただそれを信仰し

辺りを見回し

日常の煩雑さと向き合い

対極へと置いて生きていく

そう見えて悲しく捻れていた

私の退屈

死のような退屈

そして私は逃げるように

偽りの苦さを求めた

老いを怖れるあまりに追う

タナトスの火のように

 

譜奏47

GYPSY Ann

―――――ねぇ、あなたはみつけた?
―――――あたたかなぬくもりを

―――――やわらかなまなざしを
―――――強く抱きしめる手を

――― ――『GYPSY Ann』より

 

心にフィルムがあるのなら

灼き付けていたはずの

春の花降る優しさに

微睡んでいた

私の無邪気

絶望にも

希望にも

侵されず

一度の抱擁で

私の欲望は

繭人になることを

望んでいたのかも知れないと

今想う私を

知らせる息も遠く

 

譜奏46