2018年12月17日

楽屋口から深夜営業の店に向かって歩いて

何も聞かないでと言う彼女の前に

私はドリンクバーで淹れたコーヒーを置いて

そして長い時間黙り込んでいた

涙が出ていないだけの泣き顔は永遠のように動かなかった

彼女は青春のほとんどを下積みに費やして

やっとコミカルなキャラでミュージカルに呼ばれるようになって

今日の楽日まで明るいだけの中性を見事に演じ切っていた

知ってるんでしょと聞かれて私は目を伏せた

ピアノしか無かったのよあの子の部屋に

その下で寝てその下で死んじゃったから

私はメイクを落としていない彼女のアイシャドウを見ていた

そしてやっと流れてきた涙をただじっとみつめ返していた

聞こえてくるジングルベルがリフしないようにと願いながら

 

譜奏312