銀細工のペンダントに最後の薔薇を彫った後
老いた職人はリングの上に十字架を付けて
母の生前の写真にその影を合わせた
若き日の母の胸元に陽光のようなペンダントが輝いていた
薔薇が息ができないと嘆きそうなほどに
悲しみに偏っていった彼の心の滑面は
過敏な硝子の湿板のように陰に刻まれていて
そのフレームから出ることを拒んでいた
時が解決しないことがあることを
自身の老いによって知らされるように
彼は枯れない薔薇を彫るしかなくなっていた
不意の微睡みに襲われて柔らかく揺れる薔薇を見つめながら
過ぎゆく時のように踊ってしまったら
永遠に彼女を失ってしまうことを知っていたからだ
譜奏175