2018年1月31日

銀細工のペンダントに最後の薔薇を彫った後

老いた職人はリングの上に十字架を付けて

母の生前の写真にその影を合わせた

若き日の母の胸元に陽光のようなペンダントが輝いていた

薔薇が息ができないと嘆きそうなほどに

悲しみに偏っていった彼の心の滑面は

過敏な硝子の湿板のように陰に刻まれていて

そのフレームから出ることを拒んでいた

時が解決しないことがあることを

自身の老いによって知らされるように

彼は枯れない薔薇を彫るしかなくなっていた

不意の微睡みに襲われて柔らかく揺れる薔薇を見つめながら

過ぎゆく時のように踊ってしまったら

永遠に彼女を失ってしまうことを知っていたからだ

 

譜奏175