旅人が通らない道には生い茂った草木が陽を遮るように
名もない人の望みが夜の静寂音の中に消えていく時
私は怯えた目を泳がせながら月の陰を探したりしていた
知らず知らず私の声が水晶の洞窟の中で響いているように
知らない人のいくつもの声のように重なって
波が柔らかくぶつかり合ってその線を消すように消えていくのを
私は明晰夢の中でただ立ちつくして見ているように思えていた
今そして現実という空間はいったいどういう生命なのだろう
時という鼓動は影さえ持たないというのに
だからあの日私は逃げるように地下鉄の階段を走り下りて
追いかけるように最後の電車に飛び乗ったの
行き先のない明日に間に合ったようにも思いながら
運命の外接円に繋がれて引かれていくようにも感じながら
それが円なら同じことなのにとも思いながら
譜奏445