2019年7月5日

父からもらって寝る時も首にかけていた貝殻飾りの中糸をほどいて

それがもう二度と戻せないものだと分かった時

私はばらばらになった貝を一つづつ石で割って

泣きながら走って母の胸に飛び込んでまた泣いていたことがあった

何かを失くすという実感を恐れた初めての日のことだったと思う

しかし子供心に今形あるものが無くなるということが

どうしても受け入れられないまま私の目の残像だけが

今も私の心に固体のような影になって居座っている

何故だろう愛という言葉を聞くたびに

私はその日のことを思い出してしまうようになっていた

貝殻を粉々にした自分の衝動が私のどこかでずっと疼いている

そして私は

その痛みをずっと愛し続けている自分に気づいている

あの日壊して失くしたものを本当は知っているかのように

 

譜奏398