父からもらって寝る時も首にかけていた貝殻飾りの中糸をほどいて
それがもう二度と戻せないものだと分かった時
私はばらばらになった貝を一つづつ石で割って
泣きながら走って母の胸に飛び込んでまた泣いていたことがあった
何かを失くすという実感を恐れた初めての日のことだったと思う
しかし子供心に今形あるものが無くなるということが
どうしても受け入れられないまま私の目の残像だけが
今も私の心に固体のような影になって居座っている
何故だろう愛という言葉を聞くたびに
私はその日のことを思い出してしまうようになっていた
貝殻を粉々にした自分の衝動が私のどこかでずっと疼いている
そして私は
その痛みをずっと愛し続けている自分に気づいている
あの日壊して失くしたものを本当は知っているかのように
譜奏398