始まらず終わらない無為を知る時
私はいつか旅の日にと希い
そして内なる者にと希い
川水で羽を洗う鳥のように
飛ぶべき空の広さを測る
自身の油断に気づかず
明け方に落陽を見上げ
風砂を払い
今日のために靴紐を結んで歩いても
都合の良いモラルを曖昧に使えば
その分の罰があり
人の心の葛藤はいつしか悪賢い兎のように
いくつもの巣穴を掘って
報復し合っていくようだ
譜奏205
始まらず終わらない無為を知る時
私はいつか旅の日にと希い
そして内なる者にと希い
川水で羽を洗う鳥のように
飛ぶべき空の広さを測る
自身の油断に気づかず
明け方に落陽を見上げ
風砂を払い
今日のために靴紐を結んで歩いても
都合の良いモラルを曖昧に使えば
その分の罰があり
人の心の葛藤はいつしか悪賢い兎のように
いくつもの巣穴を掘って
報復し合っていくようだ
譜奏205
空だけではなく
海の底にも星があると思っていた頃
私は水と空気を青く透明なものだと感じていた
今でもノイズのようにその境界線は気まぐれで
私はしばしば海底に落ちている星々を胸に描く
それが実は丸底のフラスコの海の底にいると
言い聞かせるように解っていることであっても
それ以上に
青の感覚から遠ざかることを怖れる気持ちが勝るからだ
私はいつまでたっても社会というものとの折り合いに苦労する
認識して把握することだけでは成立しないところが
私には厄介だ
私の子供染みた稚拙な青との弱い分断は
嫌悪を自制する頑なな制吐剤になっていたのかも知れない
譜奏204
酒グセが悪く言葉遣いが乱暴な彼女は
50を過ぎて独身で化粧っ気がなく
スカートをはいていることがない
彼女が二十代の頃彼女は優しい微笑みの人だった
多くの人の生死の現場が彼女の丸い頬を削いでいた
一緒に居酒屋にいる時泥酔していると思っていた彼女が
携帯電話が鳴った途端に緊張感のある声で
はい、と言った時の顔を思い出す
そして彼女は店を飛び出していくのだ
死にかけてるまだ10にもならない子が私の手の甲にさ
ありがとうって感じで指文字を書こうとするんだ
口が動かせないからさ、ほんと、弱っちゃうよう
テーブルに顔をつけて涙目で彼女は泣き虫顔になって言う
私は同じ表情でただずっとうなづいている
譜奏203
都会のたくさんのイルミネーションを見ていて
昔とは逆なんだろうなとふと思った
空より明るい街は何かがだんだん終わっていく
そんな暗示にさえ思える時がある
首を寝かせて見上げていた私の目に
何キロも落ちてきた雨粒がツンと命中した
もう見なくていいよと言うように
コンビニでビニール傘を買って歩いて
私は赤信号で止まる
強くなった雨がいじめるように傘を叩く
つまらないものしか入ってないバッグを胸に抱えて
私は動けないような気持ちになっていく
青信号が赤に変わってまた青に変わっても
私は動けない自分のままの傘をただ胸に抱えていた
譜奏202