2018年4月11日

始まらず終わらない無為を知る時

私はいつか旅の日にと希い

そして内なる者にと希い

川水で羽を洗う鳥のように

飛ぶべき空の広さを測る

自身の油断に気づかず

明け方に落陽を見上げ

風砂を払い

今日のために靴紐を結んで歩いても

都合の良いモラルを曖昧に使えば

その分の罰があり

人の心の葛藤はいつしか悪賢い兎のように

いくつもの巣穴を掘って

報復し合っていくようだ

 

譜奏205

2018年4月9日

空だけではなく

海の底にも星があると思っていた頃

私は水と空気を青く透明なものだと感じていた

今でもノイズのようにその境界線は気まぐれで

私はしばしば海底に落ちている星々を胸に描く

それが実は丸底のフラスコの海の底にいると

言い聞かせるように解っていることであっても

それ以上に

青の感覚から遠ざかることを怖れる気持ちが勝るからだ

私はいつまでたっても社会というものとの折り合いに苦労する

認識して把握することだけでは成立しないところが

私には厄介だ

私の子供染みた稚拙な青との弱い分断は

嫌悪を自制する頑なな制吐剤になっていたのかも知れない

 

譜奏204

2018年4月6日

酒グセが悪く言葉遣いが乱暴な彼女は

50を過ぎて独身で化粧っ気がなく

スカートをはいていることがない

彼女が二十代の頃彼女は優しい微笑みの人だった

多くの人の生死の現場が彼女の丸い頬を削いでいた

一緒に居酒屋にいる時泥酔していると思っていた彼女が

携帯電話が鳴った途端に緊張感のある声で

はい、と言った時の顔を思い出す

そして彼女は店を飛び出していくのだ

死にかけてるまだ10にもならない子が私の手の甲にさ

ありがとうって感じで指文字を書こうとするんだ

口が動かせないからさ、ほんと、弱っちゃうよう

テーブルに顔をつけて涙目で彼女は泣き虫顔になって言う

私は同じ表情でただずっとうなづいている

 

譜奏203

2018年4月4日

都会のたくさんのイルミネーションを見ていて

昔とは逆なんだろうなとふと思った

空より明るい街は何かがだんだん終わっていく

そんな暗示にさえ思える時がある

首を寝かせて見上げていた私の目に

何キロも落ちてきた雨粒がツンと命中した

もう見なくていいよと言うように

コンビニでビニール傘を買って歩いて

私は赤信号で止まる

強くなった雨がいじめるように傘を叩く

つまらないものしか入ってないバッグを胸に抱えて

私は動けないような気持ちになっていく

青信号が赤に変わってまた青に変わっても

私は動けない自分のままの傘をただ胸に抱えていた

 

譜奏202