ガラスみたいなサクランボを口に咥えて
舞台の終わりに老ピエロは本に無い台詞を言い出した
これが最後の舞台だったからだ
ーーー若き日にサーカスを追われたわたしに拍手を下さった皆様に
私は心からの感謝と当惑の姿を遺しましょう
わたしはこの舞台で何を演じていたわけでもありません
そもそもわたしには演じる必要などなかったのですから
あなた方がご覧になったわたしはわたし自身の姿です
左手で宙を追い右手で過ぎ去った時を追い
涙も戯けも蔑まれてソデに去る卑屈な姿も
すべてがただのあるがままのわたしでした
哀しみの毒を運命の代わりに服してきただけなのです
どうぞ今夜はゆっくりおやすみください
わたしも今日を限りに眠ることにしますから
譜奏255