2018年8月6日

ガラスみたいなサクランボを口に咥えて

舞台の終わりに老ピエロは本に無い台詞を言い出した

これが最後の舞台だったからだ

ーーー若き日にサーカスを追われたわたしに拍手を下さった皆様に

私は心からの感謝と当惑の姿を遺しましょう

わたしはこの舞台で何を演じていたわけでもありません

そもそもわたしには演じる必要などなかったのですから

あなた方がご覧になったわたしはわたし自身の姿です

左手で宙を追い右手で過ぎ去った時を追い

涙も戯けも蔑まれてソデに去る卑屈な姿も

すべてがただのあるがままのわたしでした

哀しみの毒を運命の代わりに服してきただけなのです

どうぞ今夜はゆっくりおやすみください

わたしも今日を限りに眠ることにしますから

 

譜奏255