白い薔薇が好きだと言った艶髪の女は
なぜ?と聞いてほしそうに私を見て目をクリクリさせた
甘いウェーブがやさしく揺れて
切り取りたくなるような絵の構図のようだった
白は何にでもなれる
赤は赤でしかないからでしょと私がつまらなさそうに言うと
女は目に角度をつけて端側を尖らせて老婆のような顔で私を睨んだ
私は知っていた
恋を食べることにしか関心を持てないこの人は
薔薇どころか花そのものが嫌いなのだと
しかし私は折々に彼女の誘いを断われずにいた
それはその虚言の彩りの毒に
一瞬の華やいだ女の性が輝くのを見つけてしまう自分が
何色かに滲んでいく誘惑を感じていたせいかも知れない
譜奏93