酒グセが悪く言葉遣いが乱暴な彼女は
50を過ぎて独身で化粧っ気がなく
スカートをはいていることがない
彼女が二十代の頃彼女は優しい微笑みの人だった
多くの人の生死の現場が彼女の丸い頬を削いでいた
一緒に居酒屋にいる時泥酔していると思っていた彼女が
携帯電話が鳴った途端に緊張感のある声で
はい、と言った時の顔を思い出す
そして彼女は店を飛び出していくのだ
死にかけてるまだ10にもならない子が私の手の甲にさ
ありがとうって感じで指文字を書こうとするんだ
口が動かせないからさ、ほんと、弱っちゃうよう
テーブルに顔をつけて涙目で彼女は泣き虫顔になって言う
私は同じ表情でただずっとうなづいている
譜奏203