満月だと聞いていた夜
急な大雨に降られてタクシーの座席で目を閉じた
吐く息を1として
28数えたところでブレーキの反動を感じる
動き出した気配から71のところで身体が右に振られたあと
今度はウィンドウの方に首を振られる
そしてそのまま
私は冷たいガラスに頭をつけて身体の芯を凭れさせていた
黒い布を目に被せたように私の視界は音だけになっていく
怯えの構図はきっとこのような仕組みで造られていて
色彩さえ与えられていないのだろうと思った
気がつくと数が音に消えている
敬意を払えないと知っている私の一日を
私自身が忘れていくように
譜奏138