霧のような雲が月を横切ったあとにまた何かが月光をさえぎって
私は見知らぬ風のような恐怖を感じて数歩後ずさりました
それが聞き入れられない祈りの残滓のように思えたからです
思えばあの夜から私の胸に何かの種火が転写されたような気がします
そして私の苦しみの始まりの日でもありました
その火の放つ熱が愛に向かっていないとわかっていたから
生命が望む至高の完成というものはいったいどんな形をしているのでしょう
いっそそのようなものなど存在しないと願ってやまないのですが
私がその後奪い合うだけの人生を歩んだのは
ある意味摂理によるロジカルな約束事だったような気がしています
熱は燃えさかる炎になるわけでもなく決して消えるわけでもなく
得体の知れない苦しみだけを私に与え続けました
それは答があるからこその相対反応には違いないのでしょう
月が死んでくれれば愛でなくても向かう何かがあるのかもしれないけれど
譜奏465