2019年9月4日

雨の夜にだけ思い出す人がいる

涙が忘れてくれないの

ひどい恋だったのに

悲しみだけが

心を満たしてくれるなんて

そんな歌だった

多分私の母くらいの年齢だろう

銀飾りのドレスが痩せたジャズシンガーの身体を包んでいた

私はその歌声に不意をつかれていた

この歌はこの人のことに違いないとしか思えなかったのだ

私がこの人をこの歌を抱きしめられる日がくるのだろうか

こぼれそうな涙を拒んでうつむいていた目を上げた時

マイクを持つ手首にはっきりと分かる火傷痕が

まるで思い出のように私の目に灼きついていた

 

譜奏424